PAエンジニアの仕事内容とは?やりがいや魅力について解説
近年、音楽業界はライブ、コンサートなどの生で音を届けるイベントを頻繁に開催しています。そうした音楽に関係したイベントの場で、根幹となる音作りを担当するのがPAエンジニアの仕事です。この記事では、PAエンジニアの特徴や具体的な仕事内容について紹介します。
PAエンジニアとはどんな仕事?
そもそも「PA」とはなんなのか
そもそもPAとは、電気音響設備を用いて行われる「公衆伝達(PA :Public Address)」のことを意味します。一般に英語では「放送設備」を意味し、電気的な音響拡声装置の総称を「PA」といいます。
Public Addressの「Address」とは「演説」を意味します。かつてナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)を率いてドイツ帝国の総統として君臨したアドルフ・ヒトラーが、演説において音響装置を効果的に使って民を扇動していったことから、こうした電気的な音響装置が発達した歴史があります。
PAはデパートや学校など、施設内のアナウンスや独自の放送を行う時や、講演会、舞台、演劇、野外スピーチなどにおける音響なども含み、広く一般に音声を拡声していくこと全般を指し、様々な場所で電気的な音響技術が使用されています。
しかし今現在日本において「PAエンジニア」といえば、主に音楽イベントの音響的な設定、拡声装置の準備や配備を担当する仕事のことを指します。
結婚式や二次会における音響や、舞台や演劇の音響、アトラクション施設内イベントの音作り、ショーイベントの音楽やセリフを流す仕事もPAではありますが、そういった場合は一般には「音響さん」と呼ばれ、あまりPAという言葉が使われません。
現代の「PA」は主に音楽イベントの音作り全般を担う仕事
近年、音楽業界においてCDの売り上げが大きく落ち込み、音楽業界の衰退が叫ばれています。しかしCDに取って代わって、今はライブやコンサートの需要が高まってきており、音楽イベントの開催頻度は過去最高といっていいくらい増えています。
規模の大小は問わず、日本では様々な音楽イベントが開かれており、大規模な野外ステージやライブホールなどの観客席の後ろに、巨大な操作卓がおかれ、その回りで配線作業をしたり、無数のつまみをいじりながら気難しそうに作業している人が必ずといっていいほどいます。
そうした人たちがPAエンジニアと呼ばれる人であり、会場内の音作りの根幹を担う大切な仕事を行っています。音楽を主体としたイベントにおいて快適な音作りは欠かせないものです。音が大きすぎても、小さすぎても、音楽を最適に会場の隅々まで伝えることはできません。
低音、中音、高音それぞれの調整は非常に困難ではありますが、音楽イベントには欠かせない仕事です。低音が響きすぎても、中音が響きすぎても非常に聞き苦しくなりますし、高音があまりにも響きすぎると耳が痛くなってしまい、騒音のような不快な音になってしまいます。
また、音の響き方も会場ごとに細かく調整する必要があります。音楽イベントにおいて使われる会場には様々な広さや環境があり、例えば100人程度しか入らない屋内の小さな部屋で行われるイベントから、10万人規模を動員する野外特設ステージでのイベントまで多種多様です。
そうした会場ごとに適切な音設定というものがありますが、多くの場合パターン化できるものではなく、その日の天候から音楽のスタイル、コンセプトなど、イベント一つひとつによって最適な音は違うといっても過言ではありません。
PAエンジニアの具体的な仕事内容
主に3種類の仕事を通して最適な音調整を行っていく
PAエンジニアには大きく分けて3種類の役割があります。
ステージ横のメインスピーカーを鳴らして観客に音を届ける「ハウスミキサー」、ステージの前方に置かれ、内向きに設置された小さなスピーカー(業界用語で「モニター」)から音を出して演奏者自身に音を返す「モニターミキサー」、ステージ回りの機材セッティングや配線などのケアを行う「ステージクルー」です。
ハウスミキサーの仕事内容
「ハウスミキサー」の役割は、とにかく大きな音を出して会場の後ろ目一杯まで音が響くように拡声を大きくすることではなく、会場の隅々まで自然でクリアな音質で音楽が届くように適切なシステムを構築し、明瞭な音がどこにいても聞こえるようにすることです。
会場内に響きわたって拡散している音がどう聞こえているかというのは、演奏者には本来ほとんど聞こえないものです。メインスピーカーはステージよりも前方に、観客席側に大きくせり出して設置されるので、スピーカーより後ろにいる演奏者にはそこから出ている音は聞こえません。
そうした演奏音を拾って、演奏者のそばに小さなスピーカーを内向きに設置し、そこからも音を出すことで、演奏者それぞれが、自身の演奏音を把握することができます。そうした役割を担っているのが「モニターミキサー」です。
モニターミキサーの仕事内容
モニターミキサーは、会場内、ステージ外に響きわたっている音(外音)と、ステージ内で聞こえている音(中音)にギャップが生まれないように調整する役割も担います。そのうえで、演奏者自身が奏でている音をちゃんと確認しながら快適に演奏できるように、ステージ内の音環境もしっかり調整する必要があります。
そうしたシステムを会場ごとに組むことは非常に難しく、並大抵の経験では最適な音を導き出すことはできないでしょう。豊富な経験と、繊細な耳が問われる仕事です。
ステージクルーの仕事内容
ステージクルーは、演奏中のトラブルや音の干渉が発生した場合に楽器や機材のケアを行うことで、快適な音環境を維持する役割があります。音楽イベントでは、演奏者のパフォーマンスによって音がずれたり、マイクに衝撃音がのってしまったり、配線や機材が原因でノイズを発生させたり、といったトラブルがつきものです。
そうした音環境を阻害する要因を取り除くためには、操作卓に座っているだけではなかなか難しいものです。ステージ脇に控えているクルーと、PA卓に座っているエンジニアの密な連携力によって、コンサートの音が保たれています。
マイクの位置ひとつで、音は見違えるように変わる
音楽イベントのリハーサルでは、まずドラムセットやピアノなどの据え置きの楽器に対して、その音を的確に拡声装置にのせるために、音が出る部分の周辺にマイクを設置して音を拾っていく作業からスタートします。バンド演奏でおなじみのドラムセットには、設置してあるドラムやシンバル一つひとつに小さなマイクを付けます。
試奏を適宜行いながら、PAエンジニアが音を調整していくのですが、適宜操作卓にいるエンジニアからの指示をもとに、ステージクルーがマイクの位置を調整し、ステージ側でも音を聞いてエンジニアに指示を出します。マイクの位置というのは非常に重要で、この位置が少しでも異なると、いわゆる「抜けのいい音」にならないのです。
例えば一般のライブハウスとコンサートホールでは音の響き方が大幅に異なります。しかしマイクの位置を工夫したり、イコライザ(低音や高音を細かく調整する機能)を調整したりして、音の響き方を細かく変えていくことが可能です。
非常に高度な技術を持ったPAエンジニアがいれば、一般のライブハウスにいながらにして、コンサートホール並みの音の響きを再現することができる場合もあります。
PAエンジニアの仕事のやりがい
音楽をより良い音で提供し、素晴らしいエンターテインメント作りに大きく貢献できる
PAエンジニアは、様々なジャンルの音楽、ないし音が重要視されるエンターテインメント全般について、音作りの根幹から携わり、その現場に響く音全般に責任を負います。相応の高度な技術で、より良い音作りに時間をかけて取り組み、素晴らしいエンターテインメントの提供に大きく寄与する仕事です。
いくら演奏が素晴らしくても、その音が適切に拾われ、響かなければ、観客は全く音楽を楽しむことができません。当然といえば当然ですが、音楽イベントで音というのは非常に重要な位置を占めます。
耳に悪い音響を作り出してしまっては、本質的なエンターテインメントに集中できず、楽しいものも楽しくなくなってしまいます。演奏者や歌手の音を一手に預かり、それを的確に伝達し、拡散するのがPAエンジニアの仕事です。
PAエンジニアの仕事は高価で脆いガラス製品を遠くまで運搬するようなもので、運搬の仕方を間違ってしまうと、すぐにガラスは割れてしまいます。そうした貴重な生音を、最適なかたちで広く拡声でき、「音も良く快適で、素晴らしいコンサートだった」と観客にいわしめたとき、PAエンジニアは大きなやりがいを実感することができるでしょう。
好きな音楽を目一杯響かせられる、音楽好きにはたまらない仕事
PAエンジニアには、当然といえば当然ですが、音楽好きが多いといわれています。音楽を演奏するのも表現ですが、PAエンジニアが担当する音の調整や拡声もまた、演奏家との連携を主体とした一種の表現です。
演奏家は非常に繊細な耳を持っているので、自分たちの音がしっかり伝わっているのかを非常に気にします。なので、ベテランミュージシャンの多くは、お抱えの自分の好みの音を完璧に仕上げてくれる信頼できるPAエンジニアを雇っているものです。
演奏家の個性を存分に発揮できるように、的確に音を調整し、スピーカーにのせて広く沢山の人に伝達できることは、演奏家は勿論、多くの観客にも感動をもたらします。責任は重大ですが、相応の素晴らしい音体験を提供できた時の喜びは、PAエンジニアとしてはもちろん、一人の音楽好きとしても、たまらない感動になるでしょう。
PAエンジニアの仕事内容まとめ
音と向き合い続けることが大きなやりがいにつながっていく
PAエンジニアは、音楽を適切なかたちで拡声装置にのせ、広く響かせることで、人々が喜ぶ姿を見ることができます。たとえ好きな音楽でなくても、一人でも多くの観客を喜ばせることができたとき、大きなやりがいが生まれるはずです。
演奏家とうまくソリが合わない場合も多々あり、大変な仕事です。しかし、大変だからこそ、その場にいる全員にとって素晴らしい音作りを追求していくことに充実感を感じることができるはずです。
今後、ライブなど直接音楽を楽しめるイベントの需要はますます高まっていきますので、PAエンジニアは今後もおおいに活躍できるでしょう。
PAエンジニアの参考情報
平均年収 | 400万円~600万円 |
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必要資格 | 必要資格なし |
資格区分 | - |
職業職種 | 音楽・ラジオ |
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