版画家の仕事内容とは?やりがいや魅力について解説

版画家の仕事内容とは?やりがいや魅力について解説

版画制作は1つ1つ手作業で丁寧におこなうため、作品を完成させるまでに時間がかかります。その分、完成したときは強い達成感を感じられる仕事です。この記事では、繊細な技法を駆使して版画制作をする版画家の仕事内容とやりがいをご紹介します。

版画家とはどんな仕事?

版画を制作する版画家

版画家とは、さまざまな技法を使って版画を制作するアーティストのことをいいます。版画と聞くと、木版に描かれた絵を彫刻刀で彫って色を付けていくイメージがあるかもしれませんが、版画家は木版だけでなくアルミ板やゴム版、石版、銅版を使って版画を制作します。

版画家として版画のみで生計を立てている人は少なく、本業の傍ら副業として版画教室を開いたり、学校の美術教師や美術大学・専門学校の教授として働きながら、空いた時間で版画制作をおこなう人のほうが多くなっています。

基本的には1人で制作する

浮世絵など日本伝統の版画は「絵師・彫師・摺師」のように各工程ごとに担当者が変わる分業制をとっていましたが、現代の版画の多くは全工程を1人でおこなうことがほとんどです。

下絵を描くところから彫り、刷りまで全て携わることができるので、分業制と比べて版画制作の技術も磨けますし、より作品に愛情をこめて制作することができます。また、1人で制作することで、自分のペースで版画制作を進められるメリットもあります。

しかし、基本的には全工程を1人で担当しますが、場合によっては下絵をイラストレーターに依頼することもあります。

版画家の具体的な仕事内容

ここでは、版画家が版画制作で用いる4つの技法について詳しく紹介します。版画家は以下の技法を用いて、版画で風景や人物を表現します。

凸版(とっぱん)

凸版とは、小学校の版画制作でも使われる一般的な技法で、版の凸部分(彫刻刀で彫っていない部分)にインクを塗り、紙にインクを刷る技法です。凸版は木版画とリノカットでよく用いられます。

木版画

木版画は最も古い技法で、歴史上の有名な版画の多くは木版画です。その名の通り、木の板に絵を書き、色を付けたい部分を残して彫刻刀で彫ります。彫刻刀で彫らなかった凸部分にインクを塗り、紙に刷ったら木版画の完成です。

リノカット

リノカットとは、リノリウムと呼ばれる壁材などに使われる板を使って、凸版技法で版画制作をします。素材が違うだけで制作方法は木版画と同じく、インクをつけたい部分のみ残して彫刻刀で彫ります。リノリウムは木版と比べて柔らかいため、彫りやすいのが特徴です。

凹版(おうはん) 直刻銅版

凹版は凸版の逆の技法で、版の凸部分にはインクを付けず、凹み部分にインクを詰めて紙に刷ります。直刻銅版は銅版を彫刻刀やニードルなどの道具を使って彫り、凹凸を作っていきます。

エングレーウィング

最も古い銅版技法で、先端がV字型に研がれたビュランという彫刻刀を使って彫ります。ビュランを使って彫ったときに出た削りカスや金属のめくれはしっかり取り除き、版の表面を滑らかに磨いてから刷りをおこないます。エングレーウィングはとてもシャープな線を表現できる点が特徴です。

ドライポイント

ドライポイントとは、ニードルと呼ばれる先端がとがった鉄筆で銅版に凹みを作っていく技法です。エングレーウィングと比べて表現の幅が広がり、自由に線を描くことができます。力加減や角度を調節することで、さまざまな質感を表現することが可能になります。

また、削りカスや金属のめくれは取り除かずにそのまま刷るため、刷り上がったときに少し線がにじみ、味のある版画に仕上がります。

凹版(おうはん) 腐食銅版

腐食銅版は、道具を使って凹みを作る直刻銅版と違い、金属を酸で腐食させて凹みを作ります。

エッチング

銅版の表面を磨き、蝋などを混ぜたグランドという防蝕剤の膜を版の全面に作ります。その膜の上から、凹みを作りたい部分のみニードルで削り取り、版を酸で腐食させます。こうすることで、ニードルで削られた部分のみ腐食で凹み、ニードルで削らなかった部分はグランドで守られているので腐食しません。

エッチングは直刻銅版よりも滑らかな線を描くことができます。さらに、グランドの質感を変えることでより繊細な表現が可能になります。

平版(へいはん)

平版は凸版、凹版と異なり版の表面を彫ったり削ったりしません。平らなままの版に色を付けて刷る技法です。

リトグラフ

研磨剤や軽石、水で表面を磨いた石版に、直接油性のインクやクレヨンを使って色を付けていきます。色を付けたあとに硝酸などの薬品を塗り、版の表面に化学反応を起こすことで、油性のインクやクレヨンで色付けされた部分のみくっつきやすくなります。

その後、紙に刷ると化学反応が起きてくっつきやすくなった色付け部分が紙に写り、版画ができあがります。リトグラフは油分と薬品の化学反応を利用して紙にインクを写す科学的な技法といえます。

孔版(こうはん)

孔版とは、版の色付け部分に穴(孔)を作り、版の上からインクを押し付けることで穴を通して下に置いた紙にインクを転写する技法です。

他の技法と比べて転写の際に高圧をかける必要が無いため、紙が傷つきにくく、多くの刷り重ねが可能になります。

シルクスクリーン

シルクを張ったスクリーンを通して印刷する版画技法です。木版やアルミ板にスクリーンを張り、色を付けたい部分のみスクリーンの目を残して目留めをします。目留めができたら版の上からインクを押し付けることで、目留めをしなかったスクリーンの目の部分からインクが通り、紙にインクを転写させることができます。

シルクスクリーンは紙だけでなく、布などのさまざまなものに刷ることができる版画です。目留めの方法もいくつかあり、最も表現の幅が広い版画技法といえるでしょう。

版画家の仕事のやりがい

版画が完成したとき

版画家として版画を制作するうえで、まずやりがいを感じる瞬間は「版画が完成したとき」です。時間をかけて丁寧に1つ1つ作業をおこなった作品が完成したときは、達成感を感じることができます。

版画制作は手作業が多いため、時間もかかりますし、集中力も必要になります。ときには失敗してしまったり、思ったように作れずに落ち込むときもあるかもしれません。つらい瞬間を乗り越えて版画を仕上げたときは嬉しさでいっぱいになるでしょう。

展示会に展示されたとき

版画家として活動を続けていくと、作品を展示会に出展する機会も出てくるでしょう。

展示会には誰でも作品を展示してもらえるわけではなく、応募作品の中から厳しい審査に合格した作品や展示会運営者から「作品を展示しませんか?」と声をかけてもらった版画家の作品しか展示してもらえない場合が多いです。

そのため、展示会に自分の作品が展示されたときは、自分の実力が認められたことにもなり、やりがいや達成感を感じることができるでしょう。展示会に展示された作品を見た方から応援のメッセージをいただいたり、版画の新しい仕事をもらえたりすることもあるため、版画家としての活動の幅を広げるきっかけになることもあります。

好きなことを仕事にできる

版画家には、好きな版画制作を仕事にしてお金を稼ぐことができるというメリットがあります。先ほども紹介した通り、版画制作のみで生計を立てる人は少ないですが、趣味として版画制作を行い、少額でもお金を稼ぐことができます。

趣味で版画を作るだけでなく、お金も稼ぐことができたり展示会に出展することができると、版画制作へのモチベーションも上がりますね。

版画家の仕事内容まとめ

さまざまな技法を駆使して版画で表現するアーティスト

版画家は、ただ版を彫って刷るだけではありません。さまざまな技法を使って版画を制作し、自分の版画を世に広めていきます。

最初はなかなか目にとめてもらえなくても、日々の版画制作や展示会への出展をきっかけに、自分の作品が有名になってきたときはやりがいを感じられるでしょう。版画制作を通して、版画の魅力を伝えていくことができる素晴らしい仕事です。

版画家の参考情報

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