和裁士の資格・試験とは?取得しておくと役立つ資格の特徴などを解説
和裁士に特別な資格は必要ありません。しかし求人自体が少ない上、資格の有無を問う求人も多いので、資格を持っていた方が有利であることは間違いないといえるでしょう。和裁士として活躍する為には、どのような資格をとっておくといいのでしょうか。今回は、和裁士に関する資格の詳細や、試験の難易度などの情報をご紹介します。
和裁士の資格とは?
和裁士になるのに資格取得は必須ではない
和裁士は着物を仕立てる仕事です。現代で着物といえば、伝統行事や冠婚葬祭など特別な機会でしか着なくなったことによって、いわゆる「晴れ着」がメインとなっていますので、その仕立ては凝ったものが多く、高度な技術が必要であるとイメージする人も多いのではないでしょうか。
しかし、和裁士になることそのものに資格は必須ではありません。和裁士のように職人的な職業の場合に問われるのあくまでも技術であり、資格などの肩書きはあまり重要視されないからです。そういう意味では、資格がなくても確かな実績を残しながら名前を売れば和裁士として食べて行くことは出来なくはありません。
和裁士の需要は年々減少している…技術の可視化のための資格があると有利
とは言っても、高度な仕立ての技術を可視化するために資格が必要である、という側面はあります。なぜかというと、和裁士の担当する着物の仕立ての需要そのものが縮小し続けていることによって、年々競争が激化し、生き残るだけでも大変な世の中になっているからです。
かつて日本の普段着は和服で、庶民も簡易的なものではありましたが和服の部類に入る服装が一般的でした。庶民はあまり多くの着物を仕立てることはありませんでしたが、和裁士の仕事も一般的であり、常に需要はありました。
しかし現代では着物や和服を着る機会は減り続けており、用途に応じて一から着物を仕立てる人も減り続けています。冠婚葬祭ではレンタルの着物やお下がりの古い着物を使い回すことが多いですし、簡易的なものは工業生産品が多く出回るようになりました。
そうした時代の移り変わりによって、需要の減少に比して高度な技術や凝った装飾が求められている傾向がますます強くなっています。冠婚葬祭は勿論、旅館の女将や花魁、舞妓さんなど着物を伝統的に仕事着にしてきた職業からの需要が一般的なので、1から仕立てるものは簡易的なものではなく、格式の高い凝った和服の割合が多いからです。
こうして年々需要が限られて行く中で、正社員の求人も減り続けていますし、受注も確かな実績を持った経験豊富な和裁士に集中する傾向にありますので、少しでも就職や独立を有利にするために、資格取得が有利に働くケースは年々増えていくでしょう。
和裁士に役立つ資格「和裁技能士」
和服、着物の仕立てのプロの証である国家資格「和裁技能士」とは
先述した通り、和裁士を務めるにあたり特別な資格や免許は必要ありませんので、資格取得は必須ではありませんが、和裁の世界にはその技術を証明する国家資格があり、そうした資格を取っておくと、大きく有利に働く可能性があります。
和裁士の国家資格として代表的なものに「和裁技能士」の資格があります。和裁技能士は国家資格による技能検定制度の一つで、職業能力開発促進法によって都道府県知事によって認定される資格です。
名称独占資格であり、和裁技能士の検定試験に合格し資格取得した者以外が、和裁技能士の肩書きを名乗ることは法律によって禁止されています。なお、認定は都道府県知事ですが、検定試験の問題作成は中央職業能力開発協会が担当し、試験の実施は都道府県職業能力開発協会が担当します。また1級の認定は厚生労働大臣が行います。
和裁技能士認定試験の概要
試験開催 |
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受験料 |
※各都道府県によって受験料が細かく異なる |
項目名 |
■和裁技能士3級所定の学校で所定の和裁に関する単位を取得済みであるか、または6ヶ月以上の和裁士としての実務経験 ■和裁技能士2級所定の学校で和裁に関する単位を取得済みであるか、2年以上の実務経験 ■和裁技能士1級和裁技能士検定2級の合格者でかつ2年以上の実務経験を積むか、または和裁士としての実務経験が7年以上 |
和裁技能士の認定試験は複数の国家資格に跨る「技能検定」制度の一つで、技能検定制度に当てはまる全ての職種について、中央職業能力開発協会や各都道府県の職業能力開発協会によって統括されていますが、検定試験は職種ごとに学科試験、および実技試験が実施されます。
等級と試験時期
和裁技能士には等級が3つ存在し、3級→1級の順番で内容はより専門的に、高度になっていきます。各等級の検定試験は1月下旬に実技試験が、2月上旬に学科試験が実施されます。
受験料
学科試験の受験料は3,100円、実技試験の受験料は17,900円となっていますがあくまで標準であり、各都道府県によって受験料が細かく異なるようです。
受験資格
和裁技能士には所定の受験資格が設けられており、受験資格を満たさなければ受験することは出来ません。和裁技能士3級の場合は、所定の学校で所定の和裁に関する単位を取得済みであるか、または6ヶ月以上の和裁士としての実務経験が必要です。2級は、所定の学校で和裁に関する単位を取得済みであるか、2年以上の実務経験が必要です。
1級は2級までと比べるとかなり敷居は高く、和裁技能士検定2級の合格者でかつ2年以上の実務経験を積むか、または和裁士としての実務経験が7年以上必要となっています。
和裁技能士認定試験の実施科目の詳細、および合格率
等級 | 3級 | 2級 | 1級 |
---|---|---|---|
合格率 | 77.6% | 55.4% | 57.2% |
和裁技能士の学科試験科目は「きものの知識」「きものの歴史」「色彩学」「材料学」「着付けなどの応用知識」の5科目があり、それぞれの専門知識が問われます。
3級の学科試験は真偽法によって問われ、2級以上は真偽法に加えて四肢択一方式が取られます。簡単にいうと真偽法は普通自動車免許や原付免許と同じように◯×形式のことで、四肢択一方式とは大学入試センター試験と同じように4つの選択肢から当てはまるものを選んで行く方式をいいます。
実技試験は等級によって異なり、例えば3級では「表地および裏地を自由とし(胴裏の付くものは裏地自由)、身ごろ・立えり(下えり)付けをし、右そでを事前に縫い上げたものを持参し、試験場においてえり付け、まとめ等を行い、女子用そで無双あわせ長襦袢又は胴抜き長襦袢を仕立てる」という内容になっています。
2級、1級では表地、裏地、縫製の手法、材料、などに細かい指定が入り、基本的にある程度縫い上げたものを試験会場に持参し、襟付け、まとめ等を行う形が取られ、仕立てるものも3級では長襦袢でしたが、2級は女子用あわせ長着、1級ではあわせ長着を仕立て、かつ部分縫いは都えりの上前を縫製することが求められます。
合格基準は学科試験で100点満点中60点以上、実技試験が100点満点中65点以上となっていて、合格率は3級が77.6%、2級が55.4%、1級が57.2%ほどとなっています。ある程度スキルと知識のある人たちが対象の試験ということもあって、しっかりとスキルや知識を身につけていれば極端に難しいということはないようです。
その他の和裁士に関連する資格
商工会議所が実施する「和裁検定試験」
国家資格である和裁技能検定とは別に、東京商工会議所が主宰する「和裁検定試験」というものがあります。名前が紛らわしいですが、こちらは民間資格となっています。
2級までは受験資格は特になく、学歴・年齢・性別・国籍に制限はありません。1級受験者のみ、和裁検定または和裁技能士の2級取得者のみが受験できるという制限があります。
和裁検定試験は年1回、毎年9月中旬に実施されています。等級は4つあり、4級→1級の順番により専門的で高度な内容となります。4級、3級は1日のみですが、2級以上は試験が2日に及びます。
試験は筆記、部分縫い、実技に別れ、4級は筆記と実技の2つの試験、3級は筆記と部分縫いと実技の3つの試験2級は1日目に実技、2日目に筆記と部分縫いが課せられます。1級は1日目に部分縫い、筆記、実技の3つの試験、2日目にも実技試験が課せられます。
「和裁検定試験」の詳細、難易度、合格率
和裁検定試験の筆記試験は、職業としての和裁の常識と裁断図解、及び被服の種類に関する出題区分表の範囲から所定の専門知識が出題されます。
部分縫いに関しても所定の被服の種類に関する出題区分表の範囲からの出題となり、実技試験は、4級が浴衣、3級以上は女子用あわせ長着となっていて、等級が上がるごとに襟や寸法や材料、縫製法などの指定が加わっていきます。
また、前述した国家資格「和裁技能士」の有資格者は、所定の手続きを行うことにより所定の科目が免除されます。受験料は4級が5400円、全科目受験の場合3級が10,800円、2級が14,040円、1級が16,200円となっていますが、3級以上は2科目受験、1科目受験も可能で、免除された分受験料も安くなります。
合格率は4級が91.7%、3級が59.0%、2級が52.9%、1級が7.1%となっています。受験資格の制限がないためか、比較的易しい試験となっていますが、1級に限っては2級合格者のみという縛りがありながらも合格率が極端に低く、高度で難しい試験となっています。
和裁士の資格が取れる学校
国家資格を取るための所定の養成学校への進学がお勧め
先に見てきた通り、和裁士には資格が必須では無いとはいえ、高度な仕立て技術が要求される特性上、資格、特に国家資格である「和裁技能士」を取得しておくと非常に有利になります。
こうした技術を学ぶにしても、実務経験は比較的長く求められてくるので、早いうちから和裁士を目指す強い意志があるのであれば、最初から所定の養成施設へ進学するのが近道です。2級までの検定試験は所定の学校での単位取得によって取得が可能なので、学校へ進学しておくと非常に効率的に資格の等級を上げることが可能です。
和裁技能士の養成学校には、専門学校のほか、和裁教室、研修期間を設けている和裁所、職業訓練校、高等職業訓練校、ライセンスアカデミーなど、全国に100を超える施設があります。この施設及び学校で所定の研修を終えるか、所定の単位を修了すれば、和裁技能士2級までの取得が可能です。
東京商工会議所が主宰する「和裁検定」は特に受験資格はありませんが、国家資格である「和裁技能士」資格を持っていれば科目免除も受けられますので、「和裁技能士」を取得した上で「和裁検定」を必要に応じて取得するのが筋道としては適切でしょう。
和裁士の資格・試験まとめ
需要が少なく競争率の高い仕事。国家資格で箔をつけよう
和裁士の仕事は年々需要が目減りしていく傾向にありますが、伝統が完全に潰えない限りにおいては常に需要が残り続ける仕事でもあります。
国家資格「和裁技能士」1級は厚生労働大臣が認定します。国に技能や知識を認めてもらえば、受注や就職に大きく有利になります。技術と実績さえ確かならば資格取得は必須ではないですが、実務経験が乏しいうちに国家資格を取っておけば、最初から有利なスタートを切ることができます。
和裁士の参考情報
平均年収 | 180万円~250万円 |
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必要資格 |
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資格区分 | 国家資格 |
職業職種 | 美容・ファッション |
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