心理学者の資格・試験とは?取得しておくと役立つ資格の特徴などを解説
心理学者として働くには、大学や研究機関に研究職として就職するのが一般的ですが、特に臨床心理学の分野では、カウンセリングを行うため医療機関や民間企業などより一般社会に近い場所で働く人も多いです。今回は、心理学者になるためのプロセスや、心理学に関わる資格・試験などをご紹介します。
心理学者に必要な資格とは?
心理学者になるための資格は不要
心理学者といえば、人の心に関する問題について研究する学者を言い、大学をはじめとする高等教育機関、企業や国が運営する研究機関、民間企業、医療機関など様々な場所において働いています。
心理学者になる上で、必須となる特別な免許や資格は特に存在しません。研究機関や医療機関、大学などの採用試験を受けて合格すれば、心理学者として働くことは可能です。ただし研究職ということで、一般人が採用試験に臨んでもまず受かることはないでしょう。
心理学者になる上で唯一必要なのは、大卒以上の学歴くらいのものです。と言ってもどの分野でもいいかといえば勿論そうではなく、大学において心理学分野での単位を取得し学士号を修め、大学院に進学し研究を深めるというのが一般的です。
まずは心理学の教養を磨き、研究分野を持つことが必要
心理学者になるためには、まずは大学へ進学し心理学の基礎全般の教養を磨く必要があります。
学部で基礎的な心理学の知識を学び、修士課程に進んだのち研究をより深く明確な分野へブラッシュアップしていくことで、明確な自分だけの研究分野を確立していくというのが心理学者へのスタートラインとなります。
心理学者になる場合、一般的には大きく分けて2種類のプロセスがあります。
第一に大学において学部のみならず大学院、修士課程・博士課程へ進み修了したのち、研究室の助手となったり講師として大学や公的な研究機関(国立や公立の研究所など)に雇用される道です。アカデミックな心理学分野の研究を深めたい場合に一般的な道筋で、将来的には大学の准教授、教授へと出世し、著書や論文などの成果をあげていきます。
第二には、大学院の修士課程あるいは博士課程を修了したのち、民間企業や医療機関、福祉施設などのカウンセラー・心理職として雇用される道です。こちらは、より実践的に社会へ貢献したい場合、特に臨床心理学の分野で一般的な道筋です。
いずれにせよ、まずは自分の中に心理学における基礎的・網羅的な知識を身につけないことには話になりません。そうした膨大な知識の中から、新たな切り口を見出していくために、より先鋭なアプローチで最新論文も含めあらゆる文献を読み解いて、自分なりの専門分野、研究テーマを確立することが求められます。
国や大学、公的研究機関の心理学者の資格試験
国家総合職採用試験(人間科学)の概要・難易度・合格率
国が統括する心理職には、厚生労働省の心理職(職業安定所)、法務省の法務(心理)技官、家庭裁判所の調査官などがあります。身分としては国家公務員となりますので、国が統括する心理職に就くためには、国家公務員採用試験に合格する必要があります。
一般的な心理系国家公務員の場合は「国家総合職採用試験(人間科学)」法務技官の場合は「法務省専門職員採用試験(人間科学)」、裁判所調査官の場合は「裁判所総合職採用試験(家庭裁判所調査官補)」とそれぞれ分かれていますが、ここでは、国家総合職採用試験について紹介します。
国家総合職採用試験は、専門分野によって指定の区分が存在し、心理職の国家公務員になる人の場合、「人間科学」という区分の試験を受験し、合格する必要があります。受験資格は、国家公務員試験の場合、21歳〜30歳の年齢制限があるほか、所定の学歴(大卒・院卒)が必要で、かつ日本国籍を持つ者に限られます。
国家総合職(人間科学)の試験は、第一次試験と第二次試験に別れており、第一次試験は、多肢選択式の「基礎能力試験」と、択一式の「専門試験」が課せられます。
第一次試験の基礎能力試験は基礎教養をみる試験で、文章理解、数的処理、人文科学・自然科学・社会科学(時事を含む)から計40問が出題されます。
専門試験は心理学・環境学・教育学・社会学(福祉論含む)分野における専門的な知識が要求され、心理学分野では、認知心理学・臨床心理学・教育心理学・社会心理学が課せられます。
その他の分野では、教育経営学、教育環境学、社会福祉総論、地域福祉論、社会学、現代社会論などが問われます。
第二次試験は、記述式の「専門試験」と、「政策論文試験(政策課題討議試験)」、個別面接による「人物試験」が課せられます。
記述式の専門試験では、心理学に関連する領域2題をはじめ、教育学、福祉、社会学などの各領域の計6題の中から2題を選び、論述を行います。
政策論文試験では、政策の立案に必要な能力、判断力、思考力などをみる論述試験で、与えられる資料には英文のものも含まれます。また院卒者試験の場合は政策課題討議試験といって、6人1組でのグループにおいてレジュメ作成、個別発表、グループ討議を行い、討議を行なった上で考えたことをさらに個別発表するというプロセスになっています。
また、二次試験に合格(最終合格)した後に、実際に各府省庁を訪問する「官庁訪問」を課せられ、官庁訪問時に行われる採用面接を経て正式な採用者が決定する仕組みになっています。
「人間科学区分」の最終合格者は申込者数409名に対して38名、官庁訪問を経た実際の採用人数は平成30年度でわずか12名と非常に狭き門となっており、例年の競争倍率はおおむね10倍前後を推移しています。
公的研究機関や大学での研究職採用もかなりの狭き門
国立・公立の研究機関や大学で研究職に就くには、博士号取得がまず必須条件となります。一般的には、博士号を取得したのち、ポスドクと呼ばれる2〜3年の任期付きの短期研究員の身分を経て、正規の職員となります。
求人の公募はあるものの、基本的に研究職というのは専門性が高いものであることから、所属する研究機関の方向性や自身の専門性との擦り合わせがまず必要になります。そのために、一般的に任期2〜3年のポスドク期間を設けるところが多いです。
大学において心理学分野の研究員として採用される場合は、特に狭き門と言われています。講師や研究員のみならず、大学に雇用される職員は全体的に非常に人気が高く、かつ、募集定員が極端に少ないことで知られています。
なぜかというと、大学などの高等教育機関における職員の求人は基本的に欠員が出ないと募集されることがなく、離職者も生まれにくいからです。これは事務職でも、研究職でも、講師職でも同じことです。
大学において研究者として地位を確立するには、研究機関と同じく博士課程卒業→ポスドクを経て、助教・准教授・教授といった流れで徐々に出世していくのが一般的なプロセスとなります。
しかし准教授になれるのは100人に1人と言われ非常に狭き門であり、博士号取得者の増加に比して大学や公的研究機関の正規職員のポストは限られているため、近年ではポスドクの就職難が大きな問題になっています。
民間企業、医療機関、福祉施設などの心理学者の資格試験
2018年度より国家資格「公認心理師」が新設
先に見てきた通り、心理学者になる際には、何か特別な資格や免許が必要なわけではありません。特に民間企業において働く場合は、主に臨床心理学、社会心理学の分野の関連資格を取得することで、より社会に適した幅広い方法で心理学と向き合うことが求められます。
これまで、心理学に関係する仕事において民間で就職を行う際には、臨床心理士や心理カウンセラーなどの民間資格を取得する場合がほとんどでした。しかし2018年、新たな国家資格として「公認心理師」の資格が誕生しました。
公認心理師は、公認心理師法に基づく国家資格です。教育、医療、福祉、労働・産業などの諸分野から、学術研究分野に至るまで、非常に多岐にわたる分野においてその活動領域が想定されています。「汎用性」「領域横断性」を特長とし、心理職全般に跨り活用されるべき国家資格となっています。
心理分野では従来より数多の民間資格が乱立していましたが、公認心理師の国家資格は、国家が主体となって、多様な心理系の資格をまとめて総合的に認定してくれるようなイメージといっていいかもしれません。
公認心理師は、一般によく知られている「カウンセリング」「心理療法」といった心理的な支援を主体とする仕事から、心理教育、心理コンサルティングなどの分野にも裾野を広げた資格となっています。名称独占資格として規定されている(公認心理師法第44条第1項)ため、資格認定者以外がこの資格を名乗ると法令違反となり罰せられます。
公認心理師資格試験の受験資格を得るには、四年制大学でまず所定の単位を履修することが必須となり、その上で大学院においてさらに指定の科目を履修するか、法律によって定められた施設において一定期間以上の実務経験が必要となります。
また、心理分野での5年以上の実務経験があれば、所定の講習を修了することで受験資格が得られます。
試験は選択形式での筆記試験で、計154問出題されます。230点満点中、138点以上の得点が合格ラインと言われていますが、おおむね総得点の6割程度を目安に、問題の難易度に合わせてある程度調整がなされるようです。
第1回公認心理師試験は2018年9月9日に実施されましたが、受験人数は35,020人で、合格者は27,876人、合格率は79.6%となりました。大学院レベルの専門的かつ網羅的な知識が必要となりますが、しっかり勉強していれば決して難しい試験ではありません。
心理学者の資格を得るための学校
基本的には大学院への進学が必須
以上のように、心理系の仕事には様々なプロセスがあることがわかりました。その中でも特に心理学者として狭義に定義される「心理系の研究職」に就くためには、高い学歴が必須となり、博士課程修了、最低でも大学院での修士課程が絶対条件となります。学者は研究を主体として仕事をしますので、相応の専門性が求められます。
また心理職に関しても、特に国家公務員になる場合や国家資格を得たい場合、必ずしも大学院卒である必要はないものの、大学院卒であれば有利となりますので、大学院まで進んでおくに越したことはありません。
国家総合職はキャリア採用であるため、学歴が高ければそれだけ立場的にも待遇的にも有利になりますし、公認心理師の資格を取る際も実務経験なしで受験できるのは大学院進学者のみとなるので、心理学分野で修士号をとっておくと安心です。
心理学者の資格・試験まとめ
研究職は狭き門 国家資格取得でより幅広い仕事を視野に考えよう
心理学者は、大学や研究機関の採用試験に受かれば仕事ができるものの、非常に狭き門となっていますし、博士課程修了者の就職難も課題となっているなど、問題点も顕在化しています。
それでも研究職を目指すなら、地道に研究実績を重ねて正規職員として採用される道を模索していかなければなりません。学術研究分野も含めた国家資格制度「公認心理師」の認定も始まったことですし、より幅広く社会で活躍できる心理学者を目指すのが確実かもしれません。
心理学者の参考情報
平均年収 | 400万円~550万円 |
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必要資格 |
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資格区分 | 学位 |
職業職種 | 教育・保育 |
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