和裁士の仕事内容とは?やりがいや魅力について解説
和裁士は和服の仕立てを専門にする職業です。着物を仕立てる和裁士は、年々減り続ける需要に比例して、待遇的にも仕事量的にも厳しい世界となりつつあります。この記事では、和裁士の仕事内容や具体的な特徴、将来性についてご紹介します。
和裁士とはどんな仕事?
反物から着物、和服を仕立て、1から和服を生み出す仕事
かつて、日本人の普段着は和服が主でした。身分や収入によって仕立てる着物の量や質は変わりますが、明治時代の文明開化までは、庶民を含むあらゆる階級の人が和服にカテゴライズされる装いをしていました。
しかし現代の主要な普段着は洋服になり、着物や和服は特別な機会や仕事でないと着ることが少なくなってきました。着物や和服として残っているものの大半がいわゆる「晴れ着」であり、特別な行事、冠婚葬祭、人生儀礼などの「ハレの日」に身につけるものです。
そのため和服の使用頻度は非常に少なくなり、特別な機会に着用する晴れ着にしても代々家に受け継がれているものやお下がりを着回しすることが増え、1から仕立てることは非常に少なくなりました。
また、古着文化やファストファッションの浸透と共に服装のリサイクルや洋服の量産化が進み、古い習慣が残っている地域や家柄でもないかぎり、日常的に「服を仕立てる」事自体が稀になってきています。
そうした状況の中で、反物選びから拘り、1から和服を生み出す和裁士の需要は年々減り続け、経済的にも非常に厳しい状況に立たされています。しかし、特別な行事に限られているとしても、そうした伝統行事が無くならない限り、和裁士の需要もまた途絶えることはありません。
仕立てだけでなく、既にある着物のお直しや、和裁士の育成も大事な仕事
先述通り、1から和服や着物を仕立てる人は非常に少なくなりました。その分、既存の着物の使い回しや、レンタル形式の運用が一般的になってきています。そのため、現代の和裁士に求められるのは、新たな仕立てよりも「お直し」が主となりつつあります。
着物は高価なものであるほど持ちは良くなりますが、定期的な修繕があってこそ長持ちするものともいえます。安物は修繕の頻度も高くなりますし、破損する確率も上がります。このことからも当面、お直しの需要がなくなることはなさそうです。
また、年々需要が少なくなっていくのに伴って、和裁士の人口も志望者も減りつつあります。しかし、限られた機会とはいえ着物の仕立てや直しが完全になくなることは今後しばらくはなさそうです。なので、技術の指導や継承は必ず必要となって来ます。
和裁士を養成する施設としては、全国に存在する専門学校や和装教室、研修制度を設けている和裁所など多岐に渡り、そうした場所で和裁の基本からの指導、技術の継承も和裁士の重要な仕事です。
和裁士の具体的な仕事内容
和裁士の本業は「仕立て」 活躍の場は様々にある
和裁士の本業は、需要は減りつつあるとはいえ「和服や着物の仕立て」です。そのため、和装士としての技能取得の基本は「仕立て」の技術になります。
仕立てにはまず、様々な道具を用意することが必要になって来ます。まず必須となるのは「針」で、どんな仕立てにおいても必須になります。針には「四ノ一・四ノ二・四ノ三」といったようなものがあり、最初の数字は太さを指し、数字が大きくなるほど細くなっていきます。次の数字は針の長さを指し、数字が大きくなるほど長くなっていきます。
その他にも、糸を通した針を押し出す時に使用する「指ぬき」、裁縫の仮止めに用いる「待ち針」、採寸に必要な「メジャー」「物差し」、裁断に用いる「裁ちばさみ」、糸切りに用いる「にぎりばさみ」、反物の地のし、仕上げなどに用いる「アイロン」、絹などを湿らせる時に使う「霧吹き」などがあります。
また和裁の際は、布に線を引く際には粉が布地に残ってしまうチャコペンシルは用いず、コテ熱を加えることで消える「フリクションペン」などを用います。その他、「目打ち」「当て布」「へら」「へら台」「電気ごて」「コテ版」「くけ台と掛け針」「文鎮」など、和裁に必要なものは沢山あります。
新しく着物を仕立てる際は、反物を依頼主から預かり、その反物にほころびや傷、細かい損傷箇所がないかをしっかりと点検する「検反」から作業が始まります。検反を行い問題がなければ、襟、身頃等の合わせ目の柄がぴったり合うよう、「柄合わせ」を行います。
柄が綺麗に出るように裁断する方法を検討し、身長、袖丈などをあらかじめ計測しておき、預かった反物を身頃、袖、衿、おくみに分けて部分ごとに裁断していきます。衿の肩あきを裁断したら、出来上がり線に沿って縫いしろを決め、へらで印をつけていきます。
あとは印に沿ってひたすら手で縫っていきます。電気ごてやアイロンを使用して縫い代の折り目をつけ、部分ごとに完成させたのちに、それぞれの部分を繋げて完成です。
和裁所などで正社員として雇われる際は、一般の会社と同じように週休2日制で8〜9時間、週5日勤務という規則正しいシステムになっているところが多いです。和裁は繊細な作業であるため、熟練の和裁士でも集中力は長くは続かないらしく、規則正しく休憩を挟みながら仕上げていきます。
フリーランスの場合は、注文数も作業時間も完全に自分尺度で決められますが、あまり根を詰めすぎると能率が下がるため、実働時間は会社勤めの一般職の人と労働時間はあまり変わらないようです。
既存の着物の着まわしや使い回しは普通に 「お直し」の需要は大きい
お直しは必ずしも同じサイズの着物の修繕に限った仕事ではなく、既にある着物が体型の変化で着ることができなくなってしまった場合や、体格が異なる別の人に譲るために寸法直しをしたい場合にも必要になる作業です。
お直しには様々な仕事があり、年月を経て着物の縫い目に綻びが生じた場合の「ほころび直し」、年月と共に生地がたるんだり縮んだりして表地と裏地が合わなくなってくる場合に必要な「たるみ直し」などがあります。
その他にも、折り畳みなどで不要なシワが出てしまった場合の「仕上げ直し」、寸法を変えたりデザインを変えたりする大規模な直しが求められる場合の「寸法直し」があります。寸法直しの際は、着物の縫い目を一度全て解きますので、非常に大掛かりな作業となります。
縫い目を全て解いて寸法直しを行う際には、解いた着物を一度湯通しして、再度採寸し直したサイズに整える「洗い張り」という手法が取られます。また、袖の丈だけが足りないという場合もありますので、その際は「桁直し」といって、袖の長さだけを直す手法が取られます。
和裁士の仕事のやりがい
限られた機会に着るからこそ高度な着物作りが求められる
現代では、普段着や平服は洋服が一般化し、着物を常に羽織っている人は非常に少なくなりました。着物や和服が一般に着られなくなった分、現代で着物を着るのは、皇室や名家による特別な行事に招かれた場合や、大企業の祝宴、和式の結婚式、お祭りなど基本的には「ハレの日」に限られています。
そうした際に着る着物は、特別上等なものを1から仕立てる例も少なくありません。また、一般的にはレンタルが多い成人式の振袖や袴なども、家柄によっては1から仕立てたりもしますし、レンタルが多い分のお直しも多くの需要があります。
着物は日本の伝統的な装いとして、長い歴史の中で絶えず受け継がれてきた伝統的な技術の結晶でもあります。こうした服に袖を通せることは、大きな喜びと共に気持ちが引き締まる思いがする人も少なくないはずです。
こうした、程度の差こそあれ特別感のある、着物や和服、浴衣などを纏う人たちに、特別な思い出の演出としての装いを1から生み出すことは、和裁士の真骨頂であると同時に、一番のやりがいであるともいえます。
代々受け継がれた大切な着物の修繕や、新たな形に生まれ変えらせることもやりがい
和裁士の仕事には、例えば古くから家において受け継がれてきた特別な着物のお直しもあります。そうした着物には、古くに着られなくなって、誰にも着られることがないまま箪笥にしまわれたままだったというものもあります。
そうした着物を一度全て解いて、湯通しするなどして綺麗にして、寸法を直して新たな世代の娘や孫が着られるように、新たな形に生まれ変わらせることも和裁士の大切な使命です。
大切に受け継がれてきたけれど着られなくなってしまった思い入れのある着物を新たな装いとして若い世代の家族に着てもらえるのは、親族、家族にとっても大きな喜びですし、そうした喜びを生み出すことのできる和裁士としても、大きなやりがいに繋がっていく仕事です。
和裁士の仕事内容まとめ
和裁士の需要は少なくなりつつある、だからこそやりがいがある
和服、着物を纏う習慣の減少によって、和裁士の需要も年々減少していきます。しかし和服、着物は廃れることなくずっと受け継がれてきました。これからも、ちょっとやそっとでは潰えることのない伝統の結晶です。
和服、着物は特別な機会にだけ装うものとなりつつあり、上等で拘りのある仕立てが必要になってきますし、纏った際の思い出も色濃く刻まれていきます。日本の伝統を受け継ぐ大きなやりがいとともに、これからも和裁士の仕事は求められ続けていくはずです。
和裁士の参考情報
平均年収 | 180万円~250万円 |
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必要資格 |
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資格区分 | 国家資格 |
職業職種 | 美容・ファッション |
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