能楽師の仕事内容とは?やりがいや魅力について解説
日本の代表的な伝統芸能である「能や狂言」。能楽師は舞台の上で能楽を演じることが主な仕事です。能楽の舞台は、主に4つのパートに役割が分けられており、色々な流派が存在します。今回は「能楽師」の詳しい仕事内容ややりがいについてご紹介します。
能楽師とはどんな仕事?
能や狂言を演じ、後世に能楽を伝承する
能楽師とは舞台の上で「能」と「狂言」を演じる人のことを指します。能楽は現在「ユネスコ無形文化遺産」として認定されており、室町時代から約600年以上の歴史を持つ世界最古の舞台芸術ともいわれています。
能楽のもととされるものは奈良時代に始まった「散楽」です。時代を経て南北朝時代から室町時代にかけて「観阿弥・世阿弥」の父子が現在の能楽のかたちに大成させたと伝えられています。
能楽師はこの歴史ある舞台芸術を後世に伝えるため、日々稽古を繰り返し、舞台で公演を行って多くの人に日本の伝統文化を伝える大事な役目を果たします。
能や狂言はどのように構成されているか
能楽師は能を演じる「能師」と狂言を演じる「狂言師」の二つの演者両方を指します。昨今では能と狂言に分けて、それぞれ個別に公演が行われることがありますが、能と能の間に狂言を上演するスタイルが本来の正しいスタイルとされています。
また、能の上演時間が約1時間から1時間20分であることに対し、狂言は20分から30分と短いことが特徴です。舞台上において、能楽師は「シテ方・ワキ方・囃子方・狂言方」の4種類に役割が分けられ、与えられた役割以外の役を演じることは決してありません。
シテ方は舞台の主役、ワキ方は脇役、囃子方は小鼓等の楽器演奏、狂言方は狂言を演じる役目を果たします。能楽師がこれら4つのパートをそれぞれ演じることで、はじめて能楽の舞台が完成するのです。
能楽には多くの流派が存在
能楽の舞台は4つのパートのうえに成り立つものですが、シテ方やワキ方などはさらに細分化されています。またその役割には多くの流派が存在しています。どのようなものがあるのか見ていきましょう。
シテ方
シテ方は舞台でこの世に存在しないもの(亡霊や神)を演じるため、面をつけて演じることが特徴です。シテ方には5つの役割(シテ・ツレ・子方・地揺・後見)に分類されます。「シテ」は一つの上演に一役だけの主役。
主役級に重要な役割を「ツレ」、基本的には子役を指す「子方」、6~10人で斉唱を担当する「地揺」、舞台後方に待機して舞台を見守り不測の事態に備える「後見」で成り立っています。流派は喜多流・金剛流・宝生流・金春流・観世流の5つで、それぞれ演出や衣装、言葉や能の演目に違いがあります。
特に「観世流」は江戸時代から現在まで多くのシテ方の属している流派として知られています。
ワキ方
能楽で使われる「お面」はシテが着けますが、脇役であるワキ方はお面を顔にかけることは絶対にありません。ワキ方には、シテ方の演技を引き立たせる相手役と、シテ方と同等に物語を進める対向者としての役割があります。流派は福王流・高安流・宝生流の3つです。
囃子方
囃子方はシテやワキが登場する時や謡う時に楽器を演奏する役割をします。囃子方は笛方・小鼓方・大鼓・太鼓の4つ、かつ一人ずつの配置で舞台で演奏しますが、演目によっては太鼓がない場合もあります。
囃子方は基本的に自分の専門外の楽器を演奏することはありません。またそれぞれ流派があり、笛方は一噌流・藤田流・森田流、小鼓方は大倉流・観世流・幸流・幸清流、大鼓方は石井流・大倉流・葛野流・観世流・高安流、太鼓方は観世流・金春流と細かく分類されています。
狂言方
狂言は基本的に能と能が演じられる間に20~30分かけて行われる舞台で「間(あい)狂言」といわれます。また、現在では狂言の芸術性に注目が集まり、能に関係なく独立して演じる狂言もあります。流派は和泉流と大蔵流の2つです。
現在活動しているのは、和泉流は野村万蔵家・野村万作家・野村又三郎家・三宅家・狂言共同社、大蔵流は大蔵家・茂山千五郎家・茂山忠三郎家・山本家・善竹家が代表格といわれています。
能楽師の具体的な仕事内容
舞台で能楽を舞う
能楽師は全国にある「能楽堂」で主に公演を行います。また、夏なると「薪能(たきぎのう)」という野外に設置された能舞台で、夜間にかがり火を灯し、幻想的な雰囲気のなかで公演を行うこともあります。
薪能は本来能楽が野外で上演されていたことに由来し、毎年東京・大阪・京都を中心に開催されています。能楽の舞台のない地方公演では、市民ホールのような大きな会場に仮の能舞台を組み上げて公演を行う方法が一般的です。
また、日本国内にとどまらず海外での能楽公演も盛んに行われています。能楽師はこれらの公演を通して、より多くの能楽ファンに楽しんでもらうだけでなく、能や狂言を知らない人・見たことのない人にも認知を広め、後世に舞台芸術である能楽を伝えていく役目を果たします。
舞台以外の仕事も多くある
能楽師は舞台の上で役を演じること以外にも、上演のための下準備・幕上げ・道具の運搬・能面や能装束の管理や着付けを行います。また道具においては、能楽師が手作りすることが基本とされています。
作り物は車・山・鐘・立木台などの大きなものから、杖・枕・竿などの小さな手道具までさまざまです。以前は道具の製作に関しては「作りもの師」という道具作りの専門が存在していました。しかし現在では、道具は全てシテ方などの能楽師によって作られているのが一般的です。
作り方も流派によって異なり、厳しい指導によって細かく昔からの制作方法が伝承されています。
技術を磨き上げるための稽古
能楽の道を極めるためには、一生をかけて稽古をする必要があります。稽古は公演やリハーサルのない日に行われますが、弟子がいる場合は自分の稽古以外に指導も行わなければなりません。
また弟子以外にも、アマチュアや愛好家の人向けの教室を受け持っている能楽師も多く存在します。忙しい公演の合間を見計らって己の知識や技術を磨き上げると同時に、後継者の育成をするのも能楽師の大切な仕事といえるでしょう。
マスメディア対応
世間の認知度が高く人気のある能楽師は、テレビやラジオ番組や雑誌などのマスメディアに出演することも珍しくありません。マスコミを通じての仕事はイベントの告知など、能楽の情報を伝えるために行われます。
また、近年では能楽師本人の公式ホームページを作成し、経歴・舞台出演予定の告知・入門者の募集・稽古場の様子を掲載して、世間に能楽の情報を発信する人も多くいます。
能楽師の仕事のやりがい
充実した舞台を演じられた時
日々鍛錬を積み重ねて行う稽古の成果を舞台で発揮できた時、能楽師にとってこれほどの達成感ややりがいを感じることはないでしょう。能楽の舞台は一人で作り上げるものではなく、他の多くの演者との「あうん」の呼吸によって生み出されるものです。
能楽の舞台のリハーサルは1回しか行わないのが基本で、何度も全員で練習を重ねることはありません。そのような環境のなかで、まわりの人達と一体になり、充実した舞台を作り上げることができることも、能楽師にとってこのうえない喜びを感じる瞬間といえるでしょう。
観客が喜んで舞台を見ている時
どの芸能事にも共通することですが、舞台は観客がいてこそ成り立つものです。能楽を見に来ている観客の、喜んで舞台を見る姿・上演に真剣に集中している様子・笑顔・温かい言葉・拍手など、観客が能楽の舞台を心から楽しんでいることが伝わってくることも、能楽師のモチベーションを保つうえで大切な要素といえるでしょう。
日本の舞台芸術を後世に伝えられる
一生をかけて稽古をしながら能楽の芸を磨き上げ、約600年以上ある伝統芸能に打ち込み、なおかつ伝承に貢献できるのは能楽師だけができる仕事といえるでしょう。
「能楽を後々の代まで伝えていきたい」「もっと多くの人に能楽を知って欲しい」という想いや情熱を持ち続けることで、世界最古の舞台芸能である能楽を後世に伝えることができるでしょう。
能楽師の仕事内容まとめ
能楽師は生涯技術を磨きながら公演を行う
能楽師はプロとして舞台に上がった時がスタートといわれています。一生をかけて完璧を追い求めながら、稽古で技術を磨きつつ日々多くの公演をこなします。また、弟子の稽古付けや舞台の準備、マスコミ対応など、演じる以外の仕事も多く存在します。
以上のように、能楽師は素晴らしい舞台芸術「能楽」を世間に伝えるために日々努力し、舞台に足を運ぶ観客を喜ばせることが仕事です。
能楽師の参考情報
平均年収 | 400万円〜500万円 |
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必要資格 |
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資格区分 | 試験合格 |
職業職種 | 芸能 |
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