音楽療法士の仕事内容とは?やりがいや魅力について解説
近年、福祉や介護の世界において、音楽療法の需要が高まってきています。音楽を通して、身体機能の改善や健康の維持を行い、また実際に演奏することで認知能力の改善なども行える音楽療法ですが、日本ではまだ発展途上の分野です。この記事では、音楽療法士の仕事内容や特徴、将来性についてご紹介します。
音楽療法士とはどんな仕事?
音楽療法士は音楽を通して人々の健康を促す仕事
音楽療法士とは、病気や障害を持つ人々に対して、音楽を媒介にして、心身の回復、機能向上、改善を図る仕事です。音楽療法とは、音楽を聞いたり、あるいは演奏したりする際の心理的・生理的・社会的な効果を治療に応用することで、心身の健康の回復、機能向上、改善を目的とする健康法、あるいは代替医療、補完医療を指します。
現代医学における医療とは異なるアプローチであり、直接的な治療を施すのではなく、あくまでも音楽という外的要素を受動的に受け入れ、あるいは自発的に表現することで、生体そのものの機能を間接的に促してあげる治療です。
また、それと同時に、人々に幸福感や充実感を与え、生活の質を向上させ、症状を軽減し、初期治療やリハビリテーションの効果を高めてくれるものとされています。そのため、音楽療法は医師免許がなくても対応が可能ですし、音楽療法士の担当する仕事に関しては、特段国家資格などがなくても、業務自体は行うことができます。
音楽療法には2種類の方法論がある
音楽療法には、大きく分けて2種類あります。音楽を聴く受動的音楽療法と、歌唱や演奏を行う能動的音楽療法です。受動的音楽療法は、個人または集団で、クライアント(患者)あるいはセラピスト(施術者、この場合は音楽療法士)が選曲した楽曲を、クライアントが聴くことを指します。
なんらかの音楽を聴くことで、リラックスしたり、感情が落ち着いたり、高ぶったりすることは誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。そうした音楽を聴いた時の感情の変化、緊張の緩和などを、心身の疾患を抱えたクライアントの治療に応用するのです。
能動的音楽療法は、個人または集団で、楽器を用いた即興演奏、歌唱、音楽を用いた身体運動を行うことで、クライアント自身が表現することを主体にした治療を指します。音楽を聴くことでも感情が変化するのは勿論ですが、音楽は実際に自分が音を出したり、演奏を行うことによって、気持ちが落ち着いたり、思考が整理されたり、気持ちが高ぶって楽しくなったり、気持ちが前向きになったり、そうした経験の心当たりがある人は少なくないでしょう。
音楽はメディアであり、かつ表現手段でもあります。心身共に健康になるには、心身ともに作用する音楽療法が重要になってきます。受動と能動を各個人に合わせて適切に割り振ることで、音楽を聴くことで心が安らぎ、楽しくなり、音楽を歌い、奏でることによって身体が動き、神経が研ぎ澄まされ、結果、これもまた心の健康に繋がって行き、その心の健康が身体機能の改善に繋がっていく、好循環を生み出すことができるでしょう。
音楽療法士の仕事の具体的な内容
受動的・能動的音楽療法を組み合わせ最適な治療を行う
音楽療法士は、音楽を媒介にして、様々なアプローチでクライアントの心身の作用を促し、心身ともに改善、機能向上、健康維持に努めます。受動的音楽療法、能動的音楽療法の具体的な方法論については、以下のようなものがあります。
受動的音楽療法の例としては、アメリカの音楽療法士ヘレン・ボニーによって開発された、GIM(音楽によるイメージ誘導法)という方法が存在します。これは主に精神科の個人音楽療法において使用される方法で、クライアントはリラックスした状態でクラシック音楽を聴いて、感じたことをイメージします。
そのイメージが、音楽とともにどのように変化していくのかを自分自身で追憶しながら、セラピストにリアルタイムで伝えて行きます。セラピストはクライアントと対話しながら、クライアントが抱くイメージを徐々に誘導して行き、その時々に現れる些細な感情にもしっかり瞠目します。
この時、セラピストには対話を通してある程度クライアントの感情の動きやイメージをコントロールする高い技術力が要求されるとともに、クライアントの精神の深いところにまで踏み込むことから、クライアントとの確固たる信頼関係を築く必要があります。
また、受動的音楽療法に応用されるものとして、1/f揺らぎや、α波などがあります。1/f揺らぎは音楽の持つ周波、音波の動き方におけるカオス(不規則、混乱)とコスモス(秩序ある世界)が程よく調和している状態をいい、自然物が発する音、例えば川のせせらぎや虫の声、波や風の音などが1/f揺らぎを持っているとされています。α波は脳波の一種で、リラックスした状態で最も多く出ると言われています。
こうした1/f揺らぎを持つ音楽や効果音を流したり、α波の分泌を促す音楽を流したりすることで、クライアントをリラックスさせることも音楽療法士の腕の見せ所です。
能動的音楽療法の例としては、ノードフ・ロビンズ音楽療法(創造療法)があります。この治療法は、身体・精神障碍児や自閉症児を中心に、様々な人に対して試みられている方法です。具体的な方法としては、クライアントが自由に楽器を用いて表現を行い、それに対してセラピストは、ピアノや声でその表現に応じ、即興演奏による対話のような形式で治療を行って行きます。
この治療法は非常に高度な技術が必要とされ、ロンドン、ニューヨーク、ドイツなどではこの治療法を教える特別な教育機関があるくらいだそうです。
日本の音楽療法の現場においては、集団で歌を唄ったり、合同で楽器を一斉に演奏したりといったこともよく行われています。これは日本の社会の気質に見合った治療法で、集団行動に安心感やカタルシスを覚える傾向にある日本人にとっては効果的な治療法です。
音楽療法士の勤務先は様々
音楽療法士は、一人一人に合わせて最適な音楽プログラムを作成し、音楽療法に臨みます。乳児から老人まで、音楽療法はありとあらゆる人に対して適用できるからこそ、それこそ人の数だけアプローチの手段がある、応用は無限にある仕事です。
音楽療法士の勤務先も非常に多岐に渡ります。例えば、知的障害児、盲・ろう児、自閉症児の施設や児童相談所といった子供のための施設や、身体、聴覚言語、精神、知的障がい者の更生施設、介護福祉施設やデイサービスセンターなど、またそれ以外の諸々の医療施設(診療所、病院、クリニック、医療センターなど)、保健施設(保健所、保健センターなど)、自治体運営施設(健康センターなど)、学校など教育の場、等があります。
また、音楽療法は痛みのケアなどの効果もあるので、末期ガン患者やエイズ患者などを扱う緩和ケア病棟(ホスピス病棟)などでホスピスケアの仕事をする人もいます。老若男女全ての年齢において、様々な状況で音楽療法は必要とされているのです。
音楽療法士の仕事のやりがい
音楽を通して、様々な人の健康や身体機能向上に貢献できる
音楽療法士は、人々の心身の健康の増進や維持に対して、音楽を用いた治療指導を行うことで深く関わっていく仕事です。
音楽が心身に及ぼす良い作用については、治療に際し非常に重要な意味を持っていることは、諸外国の音楽療法の扱われ方を見ても明らかです。しかし現代日本ではまだまだ認知度が低く、国家資格化も、現場から要望は出ているものの実現には至っていません。
そうした事実は残念ではありますが、裏を返せば、これからますます発展していくであろう分野として、これから需要が飛躍的に伸びていくだろうと推測されている音楽療法の分野の重要性を広く社会に伝え、効果を説いて音楽療法を世に広めていくことができる状況であるとも言えます。
まだ発展途上な分野であるからこそ、現職の音楽療法士がそれぞれの方法で実績を残していき、その効果を国に認めさせることを目指して切磋琢磨することができます。そうした状況に、大きなやりがいを見出す音楽療法士はきっと多いはずです。
音楽を通して人を喜ばせられる、音楽好きにはたまらない仕事
音楽療法士には、音楽好きが多いと言われています。もちろん音楽を扱う仕事ですから当然といえば当然ですが、日本音楽療法学会などの大きな団体の養成課程や認定試験には音楽の実技もありますし、治療法にもあったように、クライアントと音を通して会話できるような対応も必要になってくることから、音楽療法士はただ音楽に詳しいだけでなく自ら演奏もできる人が求められています。
音楽を演奏するということは、表現することです。能動的音楽療法の一環として、クライアントと一緒に演奏したり、歌ったりもします。そのような活動を通して、クライアントが笑顔になり、音楽のおかげで心が落ち着いたと言われたら、大きな感動を覚えることでしょう。クライアントと一緒に音楽を文字通り楽しむことが、更なるやりがいに繋がっていくでしょう。
音楽療法士の仕事内容まとめ
音楽を通して患者と向き合うことの楽しさがやりがいに繋がる仕事
音楽療法士は、音楽を用いることで人々が喜ぶ姿を見ることのできる仕事です。音楽好きが音楽療法士になれば、その姿に非常にやりがいを覚えることでしょう。昨今、超高齢化社会により高齢者施設などで音楽療法の需要はますます高まっていくでしょう。
音楽療法は日本ではまだまだ認知度不足。これから知名度をあげていく意味でも、音楽が持つ思わぬ効果を日々発見できる楽しさを感じられるという意味でも、音楽療法士はこれからが楽しみな仕事であるといえます。
音楽療法士の参考情報
平均年収 | 250万円~350万円 |
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必要資格 | 必要資格なし |
資格区分 | - |
職業職種 | 心理・福祉・リハビリ |
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