建築模型士の仕事内容とは?やりがいや魅力について解説
建築模型士の主な仕事は、住居などの建築を設計する際に検討段階、完成段階において作られる建築模型を作ることです。建築模型と一口に言っても、建築模型士が作る建築模型には一般住宅から大規模なホールまで様々な種類があり、時には街全体という広域な模型を作ることもあります。本記事では、建築模型士の具体的な仕事内容、仕事のやりがいなどについてご紹介します。
建築模型士とはどんな仕事?
建築士など設計者が考案した建物を縮尺模型で再現する仕事
建築模型士は主に設計事務所や模型製作専門の企業において、一般住宅や中規模マンションをはじめとして、建築士・建築家・デザイナーなどが設計した建物を実際に模型として立体化する仕事を担当します。
建築模型は基本的には縮尺模型として作成され、スケールはそのままに大きさを非常に小さく作ることで、建物の立体物としての全体像や構造を把握しやすいようにします。打ち合わせ等の場で事前にクライアントに模型を見てもらうことで、設計に際して致命的な問題がないかどうかを確認するために用いられます。
また、建築模型製作の目的もそれぞれ異なり、全体像を簡易的に把握するための簡素な模型だったり、外観の詳細や庭や周りの景観なども忠実に再現した緻密な模型だったり、目的に応じて求められる建築模型の質も非常に多種多様です。
大規模な都市開発や広域に及ぶ都市計画の際には、特定のターミナル駅の周辺全てを模型に再現したり、街全体の俯瞰図を立体模型にしたりなど非常に大きい建築模型を作る場合もあります。
建築模型の技術や素材は時代とともに変わっている
日本では古くから建築模型が用いられてきました。日本では釘などを一切使わずほぞ・ほぞ穴による接合を主とする軸組構法と呼ばれる技術が伝統的に用いられており、伝統的な木造建築を建てる際には、そうした軸組を再現した軸組模型が予め作られるのが慣例でした。
明治時代以降、近代化が推し進められる中で、西洋建築の様式が輸入されていく中で、石膏による彫刻技術もまた輸入されてきました。こうした背景もあって、模型の型枠に石膏を流し込み、石膏を水で溶き接着剤代わりにするなど石膏を用いる模型製作法が確立しました。ただし石膏は型を作る必要があり、固まるのに時間がかかるなど難点もありました。
現在馴染みのものとなっている壁状・板状の建材で組み上げる現代建築の工法もこの頃にある程度確立されましたが、建築模型がより簡単に作れるようになるまでには長い時間を要しました。
戦中から戦後にかけて、映画の大道具、小道具等で用いられていたバルサ板材の建築模型への応用に始まり、発泡スチロールやスチレンボードでの模型製作、プラスチックやアクリル、金属板などを用いて卓上で気軽に模型を製作できる技術や素材加工技術の発展により、建築模型の作り方も様々な手法が手軽に用いられるようになりました。
現代建築においては基本的にはスチレンボードでの模型製作が主流となっていましたが、近年ではCAD技術によってPC上に仮想的に模型を作ることができるようになりました。
またそうした3DCADのデータをそのまま立体物として出力できる3Dプリンターが目覚ましい発展を遂げており、物理的な建築模型の需要が減ってきています。今まさに、建築模型の製作において大きな変革期に差し掛かっていると言えるでしょう。
建築模型士の具体的な仕事内容
建築模型の種類は様々にある
建築模型と一口に言っても、使用目的や作り方によって様々な種類に分類出来ます。まず、使用目的や用途に応じて分類すると、大まかに2種類「スタディ模型」「プレゼンテーション模型」に分けることができます。
「スタディ模型」とは、設計がまだ途中段階にある際に都度作られる模型で、設計者が考えた形の通りに立体物になった時に問題が発生しないか、大まかな立体物としての形を見て設計案を再度検討しブラッシュアップすることを目的に作られます。
スタディ模型は細かいところまで作り込むのではなく、大まかに構造を再現して立体的に可視化するためのもので、多くの場合は複数回にわたり作られ、その度にデザイン上で構造上の問題をできる限り潰して行きます。
「プレゼンテーション模型」は、スタディ模型の検討を通してある程度設計案が固まり、まとまったところで作成される模型で、主にクライアント(建築主)に設計の詳細な内容をわかりやすく伝えることを目的として作られます。
またプレゼンテーション模型は建築物が竣工された際に、その建築を訪れるお客様に向けた施設説明のために、エントランスホールなどに展示するために作られることもあり、その際はかなり細部まで緻密に再現を行うため、非常に大規模な仕事になります。
作り方での分類を行うなら、大きく分けて2種類、「ボリューム模型」と「空間模型」に分かれます。ボリューム模型は、周辺環境や景観と見比べるために、内部構造はひとまずおいておき、外観だけを塊として作成する模型を指します。一方、空間模型は、外観だけでなく内部の空間も意識して作られる模型を指します。
ボリューム模型から空間模型へ移る過程において、一部分だけを詳細に立体的に再現して模型を作ることがあり、そうした模型には断面模型やレリーフ模型などがあります。
建築設計のプロセスにおける建築模型の関わり方
建築物が設計される時、図面を複数回書き直すことと並行して建築模型が都度作られることが多いです。こうした段階に作成されるのが前述のスタディ模型だったり、ボリューム模型だったりします。
設計の初期段階では、まず大まかな方向性や形態の検討を行うためボリューム模型を作成します。ボリューム模型を使うことによって法規制への照らし合わせを行い、設計可能範囲に大まかなあたりをつけることができます。
その後、より詳細にプランを詰める段階になったところで、レリーフ模型を都度作りながら設計の方向性をある程度まとまった段階にまで持っていき、基本設計を固めていきます。
基本設計が固まったら、「実施設計」と呼ばれるフェーズに入ります。実施設計段階では空間模型が作られ、ホール等の音響シミュレーション模型、実際に使用する仕上げ材を用いた完成模型など、より詳細な模型が作られます。
超高層ビルを作る際は、ビル風や日照に関して周囲の環境に与える影響も勘案するため、より広域にわたる詳細な模型作りによって検討していきながら、最終的な設計案へと落とし込んでいきます。
設計が完了して実際に建築工事がスタートすると、各部分ごとにより詳細な模型が作られ、そうした模型によって詳細な施工に関して適宜確認をとりながら工事を進めていきます。その際には原寸に近い大きな模型が作られることもあります。
以上のように、建築模型は設計・工事の進行と密接にリンクしていることがわかります。
そして、最も作られる数が多いのは基本設計が固まる前に作られるスタディ模型です。スタディ模型は詳細な模型でなく簡素なものですが、基本に関わっていくからこそ最も重要なもので最も需要がある建築模型です。
建築模型士の仕事のやりがい
人間の生活の基盤の一つ「住」の形を決めていく仕事
人間の生活の基盤は「衣・食・住」ですが、その内の「住」を設計段階から司る仕事の一端を担うのが建築模型士です。人間が長く住んでいく住居において最も重要なのは基礎部分、骨組部分です。ここが杜撰だと、すぐさま住居は劣化し倒壊してしまうでしょう。
住居は当然ながら立体物であり、そうした立体物としての基本的な頑強性を検討していくにあたって非常に重要な役割を担うのが建築模型です。
そうした全ての住居の立体物としての基盤を構築していくにあたって、建築模型が必須となっていることから、人々の生活に欠かせない住居の設計の基礎を担う建築模型士という職業は大きなやりがいを生む仕事と言えます。
多くの人が利用する大規模な施設や街全体の設計にも関わる仕事
建築模型士は様々な建築物の設計に携わります。一般の住宅やマンションだけでなく、地域の大規模なショッピングモールや駅、音楽ホールやスポーツ競技場、時には寺社仏閣など、多くの人が集まり利用する大きな建物の設計においても都度建築模型が作られます。
時には街全体に及ぶ都市計画の設計に携われることもあるでしょう。プロジェクトが大規模であればあるほど、模型の重要性が増すといっても過言ではありません。そうした多くの人の生活にとって重要な意味を持つ大規模な建造物の設計に関わることができることも、建築模型士の大きなやりがいと言えるでしょう。
規模が大きくなればなるほど、クライアントの要望もより大きな意味を持ってくるようになります。様々な人が関わるからこそ、そうした要望にきっちり応えられるような設計を行うために建築模型は極めて大きな意味を持ちます。
建築家も兼任できれば、建築模型製作を通して設計をブラッシュアップできる
建築模型士の中には、建築模型士のみを専門的に勤めているのではなく、建築士・建築家・デザイナーといった設計者として仕事をしながら、自分で模型を作る建築模型士も少なくありません。
自分で設計を担当しながら同時に建築模型を作ることができれば、建築模型を作りながら細かなアイディアを自分の頭の中で詰めていくことが可能になります。
工作肌の人間によくあるブレインストーミングの方法は手を動かすことと言われています。手作業を実際に行うことによって、クライアントの需要を満たす斬新なアイディアが生まれてくるのです。
そうした過程によって自分のアイディアが実際に採用されるかはまた別の話ですが、過程そのものの面白さは確実にあります。装飾や質感も含めて細部まで作り上げる中で、効果的なアイディアが次々と湧いてくる人もいるでしょう。
このように模型製作そのものの面白さがあることも、建築模型士のやりがいにつながっていく大切な要素です。
建築模型士の仕事内容まとめ
建物を作り上げるにあたって建築模型はまだまだ必要
建物、特に住居やマンションといった建物は、常に人々にとって欠かせないものです。人々の生活において非常に重要であるからこそ、細部まで確実に作り込んでいかなければ、欠陥のない住宅を作ることは難しいです。そのために建築模型が大きく活躍します。
近年ではCAD技術や3Dプリンターによって建築模型士の仕事が減ると言われていますが、細かい部分まで立体的に作り込んでいく際には全てをコンピュータで行うのはまだ難しく、人の手によって模型を作る方がより確実で早いです。
少なくとも今後しばらくは、建築模型の需要は減りこそすれ尽きることはないでしょう。
建築模型士の参考情報
平均年収 | 300万円〜400万円 |
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必要資格 | 必要資格なし |
資格区分 | - |
職業職種 | 建築・不動産 |
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