鍼灸師の資格・試験とは?3つの国家資格を併有して総合的治療を目指そう
鍼灸師は、鍼灸治療を専門に行う職業です。かつては視覚障害者が行っており、非常に専門性の高い仕事ですが、鍼灸師として施術するために必要な資格とはどのようなものなのでしょうか。本記事では、鍼灸師に必要となる国家資格などについてご紹介します。
鍼灸師に必要な資格とは?
「鍼灸師」と呼ばれる資格は存在しない
鍼灸師は、鍼治療、灸治療を専門に担当する仕事です。元々は「鍼医(はりい)」と呼ばれており、その歴史は古く、中国においては文学の歴史よりも古いといわれています。日本においては、古墳時代、欽明天皇代の世に、呉国より渡来した僧が書物とともに鍼治療の技術を伝来したと考えられています。
江戸時代からは、特に鍼治療は急速な発展を遂げ、幕臣の奥医師になる者も現れました。江戸時代における鍼医は、当道座と呼ばれる盲人が運営する互助組織によって階級制度が設けられ、その下で支配される形になっていました。
明治時代になり、西洋医学、特にドイツ医学が重用されるように医療制度が変わったことによって、東洋医学を基盤とする鍼医の地位は危うくなり、江戸時代に築かれた高度な鍼医制度は崩壊することとなります。
しかし禁止の危機に陥りつつもその地位、技術は脈々と受け継がれ、特に視覚障害者の職業として残されることとなりました。かつて鍼灸師といえば、目が見えない人というイメージが色濃かったのはこうした歴史的な事情によるところが大きく関係しています。
戦後のある時期までは実際に視覚障害者が鍼灸師を務めることが多かったため、今でも一定以上の高齢世代の場合、今でも鍼灸師は「目が見えない人の仕事」というイメージが強く残っています。しかし現在では、ほとんどの鍼灸師が晴眼者(目が見える人)となっています。
以上のように歴史的にも長く受け継がれている鍼灸師ですが、「鍼灸師」と呼ばれる資格は存在しません。しかし、鍼灸師の仕事を行うにあたっては、国家資格が必要になります。
鍼灸師になるには所定の国家資格の取得が必要
「鍼灸師」という資格はなく、法制上も「鍼灸師」という規定名も存在しないものの、鍼灸治療を行うための資格として、「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」の資格が設けられています。鍼灸師の担当する仕事にはその全ての資格取得が必要、あるいは最低でも「はり師」「きゅう師」の資格取得は必須となります。
「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」は、「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(通称あはき法)」という法律によって規定された国家資格です。
実施する医療行為については、医師法第17条に対する特別法にその根拠を見ることができます。法律に基づき、所定の国家試験を受験し合格すれば、医療行為の施行を認められることとなります。
先述の通り、現在の鍼灸師の多くは晴眼者です。しかし、もともとの歴史を辿れば視覚障害者の為の仕事として残されてきた過去がありますので、現在においても視覚障害者への配慮として、手続きや試験の実施に際して特別な形式が採用されています。
例えば、一般の国家試験は筆記試験で行われていますが、視覚障害者向けに配慮した筆記試験も併せて実施されています。例えば、試験問題において拡大文字や点字が使用されたり、試験問題の読み上げを実施したり、点字タイプライターや読書補助具、照明器具などを使用しても良いとされています。
試験会場も、晴眼者の場合では7都道府県のみですが、視覚障害者は移動のハンデを考慮し地域の制限なく各都道府県での受験が認められています。
国家資格を得るためには、所定の養成施設での修学が必要
「はり師」「きゅう師」の国家試験は誰でも受験できるわけではなく、所定の受験資格が設けられています。国家試験の受験資格は、厚生労働大臣が認める認定養成施設において3年以上の単位取得を行うことで得ることが可能です。
認定の養成施設というのは、具体的には大学、短期大学、専門学校等で、そうした所定の学校で、要綱に定められた単位を修得しないと、国家試験は受験できません。
「鍼灸師」という言葉が一般的に用いられるように、鍼灸師の勤務先も「鍼灸院」が多く、「鍼(はり)」「灸(きゅう)」が予め統合されています。そうした現状も踏まえてか、「はり師」「きゅう師」の国家試験は、この2つを同時に受験する人が殆どです。
これには理由があって、国家試験において「はり師」「きゅう師」は同時受験が可能となっている他、同時に受験する場合には事前の申請は必要となるものの、「はり理論」あるいは「きゅう理論」以外の科目、いわゆる共通科目についてどちらか一方が免除となります。
この取り決めによって同時受験する方が圧倒的に有利となるので別々に受験する人は殆どいないのです。
「はり師」「きゅう師」の資格試験について
合格率も受験者数も年々減少している
「はり師」「きゅう師」国家試験は、毎年2月頃に実施され、試験は1年に1回となっています。
試験は筆記試験で、晴眼者は四肢択一形式のマークシート2種類によって行われ、視覚障害者の場合は、事前の申請により、問題用紙への直接解答、点字による解答、点字解答用紙への墨字での解答が認められています。
出題範囲は、それぞれ「はり理論」「きゅう理論」と、それ以外の共通科目に分けられます。共通科目(13科目)は以下の通りです。
- 医療概論(医学史を除く。)
- 衛生学・公衆衛生学
- 関係法規
- 解剖学
- 生理学
- 病理学概論
- 臨床医学総論
- 臨床医学各論
- リハビリテーション医学
- 東洋医学概論
- 経絡経穴概論
- 東洋医学臨床論
はり師、きゅう師共に150点満点の試験となっており、合格基準は、150点90点以上で、つまり約6割を得点できれば合格となります。合格定員などはないので合格基準に達すれば合格できます。
合格率は近年では年々低下傾向にあります。2014年までの合格率はほぼ横ばいで、70%台後半〜80%台前半を誇っていましたが、2014年を境に合格率は低下を始め、2018年は「はり師」が57.7%、「きゅう師」が62.5%となっています。2014年までに比べると、20%以上の下落となります。
しかし所定の養成施設で3年以上勉強し卒業見込みの受験者、つまり現役生の合格率は今も依然として70%台後半をキープしています。つまり、既卒の受験者の合格率が極めて低下しているということなのですが、実際に既卒受験者の合格率はわずか10%台となっていて、かなり低いことがわかります。これは「はり師」「きゅう師」共通の傾向です。
また2018年からは養成課程におけるカリキュラムに大幅な変更が加えられ、授業数の増加など受験者への負担が大きくなっていますので、2020年度より実施される新カリキュラムを踏まえた国家試験では、更なる合格率の低下が懸念されています。
受験者数も5,000人近くだったのが、近年は4,500人程にまで減少していますので、対策が求められる状況となっています。
「あん摩マッサージ指圧師」の資格試験について
「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」の同時受験も可能に
前述の通り、「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」は同一の法律に基づいて規定されている国家資格です。また、鍼灸治療においてあん摩マッサージ指圧を併用することも効果的で、血行促進やコリをほぐす際に効率性が見違えてよくなります。
元々同一の法律で定められていることからも、運営組織も同一であり、試験科目が非常に似通っていて、日程的にも「あん摩マッサージ指圧師」は別日(「はり師」「きゅう師」国家試験の前日)に実施されていますので、現在では「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」の3つの国家試験を同時に受験することも可能です。
近年、鍼灸治療の美容業界への応用を行う取り組みが大きな注目を集めています。中でもあん摩マッサージ指圧は大きな美容効果が期待できるとして鍼灸治療との併用が望まれていますので、美容業界での鍼灸治療の施術を目指す鍼灸師は、「あん摩マッサージ指圧師」の資格を併有しておくと大きなアドバンテージとなることは間違い無いです。
「あん摩マッサージ指圧師」の合格率は高いが、養成施設が少ないのが難点
「あん摩マッサージ指圧師」国家試験の概要は概ね「はり師」「きゅう師」と変わりませんが、「あん摩マッサージ指圧理論」以外の共通科目については微妙に異なっています。
「はり師」「きゅう師」で可能だった同時受験による共通科目免除は出来なくなっています。「あん摩マッサージ指圧師」の共通科目(12科目)は下記の通りです。
- 医療概論(医学史を除く。)
- 衛生学・公衆衛生学
- 関係法規
- 解剖学
- 生理学
- 病理学概論
- 臨床医学総論
- 臨床医学各論
- リハビリテーション医学
- 東洋医学概論・経絡経穴概論
- 東洋医学臨床論
あん摩マッサージ指圧師も「はり師」「きゅう師」と同じく、合格基準は150点満点中90点以上、6割以上の得点で合格できます。先程「はり師」「きゅう師」の合格率の低下について説明しましたが、あん摩マッサージ指圧師の場合は、ここ10年の合格率に大きな変動は特になく、依然として85〜87%を安定して維持しています。
受験数も2015年は1,792人だったのが、2018年には1,584人になり、200人ほど減少していますが、これも500人近い減少のある「はり師」「きゅう師」に比べると微々たるものです。
あん摩マッサージ指圧師に難点があるとしたら、「はり師」「きゅう師」に加えて「あん摩マッサージ指圧師」も含めた3つの国家資格の養成課程を併設している養成施設が極端に少ないことが挙げられます。
これは、あん摩マッサージ指圧に関しても元々視覚障害者の仕事であった歴史がある関係上一定の保護体制が設けられていることが大きく影響しています。こうした制限によって、国家試験合格よりもまず養成施設への入学の方が狭き門となっています。
3つの資格を併有することで「鍼灸マッサージ師」として総合的治療が可能に
あん摩マッサージ指圧師の資格も持っておいた方がいい理由として、「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」の資格を全て保有している人は「鍼灸マッサージ師」「三療師(さんりょうし)」などと呼ばれ、鍼灸治療に加えあん摩マッサージ指圧も可能な総合的な治療施設「鍼灸マッサージ治療院」を独立開業できるようになります。
「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」は元々、それぞれが開業権を持つ資格ではありますが、この3つの資格を併有しておくと、3つの分野を応用したより合理的かつ効率的な治療が可能になり、保有スキルの面でも大いに有利になります。
しかし先程も説明した通り、「はり師」「きゅう師」を同時に取得できる学校は比較的多く存在するものの、あん摩マッサージ指圧師の資格も同時に取得できるようにカリキュラムが設定されている学校は非常に少ないので、養成施設を選ぶ際はどのようなカリキュラムになっているかを詳細に確認する必要があります。
鍼灸師の資格を得るための学校・教室
厚生労働大臣が認定する養成施設への進学がまず必要
鍼灸師に必要な国家資格はいずれも、厚生労働大臣が認定する所定の養成施設への進学を行い、所定のカリキュラムにおいて単位を習得しなければ受験資格を得ることができません。そのためまずは公益社団法人 東洋療法学校協会加盟校の一覧をチェックして、認定校のラインナップを把握しておくことが大切です。
公益社団法人東洋療法学校協会加盟校は全国に50校近く存在しており、その殆どが専門学校となっています。公式サイトの加盟校一覧には、それぞれの学校の概要や説明に加えて、取得できる資格の種類も書かれていますので、3つの資格を併有したいと考えている人は、3つとも取得できるかどうかは欠かさずチェックしておきましょう。
また、鍼灸治療の世界は奥が深く、西洋医学のような明確な治療基準、科学的方法による治療法の確立が無い世界です。東洋医学は直接的な触診で病状や治療法を、それこそ特異で鋭い感覚や「気の流れ」など非科学的な要素も色濃く関わってきます。
東洋医学は人それぞれによって異なる理論、方法論があり、一人一人違った治療法を確立していることが多いです。理論体系に基づく科学的方法を用いることができない世界なので、他の人の独自の方法論を常に取り入れながら、流動的に自身の治療法も変化させていく必要がある場合も往々にしてあります。
こうした性格上、鍼灸師の世界には、鍼灸師に向けた講習会が各所で実施されていて、就職した後もそうした講習会に出席することで豊かな知見を得続けることで、自らの鍼灸治療に活かすことが一般的となっています。鍼灸師は一生が勉強の連続、ともいわれています。
鍼灸師の資格・試験まとめ
鍼灸師の数だけ治療法がある、総合力を基盤に日々研鑽を
今後の鍼灸師は「あん摩マッサージ指圧師」の資格も併有し、「鍼灸マッサージ師」としての総合力をつけることがますます求められていくでしょう。
美容やスポーツへの応用など、鍼灸師の仕事はより幅広くなっています。様々な状況に即した適切な鍼灸治療を確立させていくためにも、鍼灸治療の専門性を掘り下げると同時に、鍼灸独自の理論をどう他分野に応用できるかを、日々勉強を重ねながら考えていく必要があります。
鍼灸師の参考情報
平均年収 | 350万円〜400万円 |
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必要資格 |
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資格区分 | 国家資格 |
職業職種 | 心理・福祉・リハビリ |
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